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【CNTR TALK 2】前菜A:編集とはどういうコトか?|河尻亨一|まずは雑誌で考えてみましょう

混迷な時代をSurviveするための編集力

—KANSAIから何をどう発信するかー

河尻亨一(銀河ライター/元「広告批評」編集長/東北芸工大客員教授)

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「食前酒:自己紹介」につづく、CNTR TALK レポートの第2弾。
今回の前菜Aは「編集とはどういうコトか?」。
SNSやキュレーションのお話の前に、まずは基礎編の雑誌から考えていきます。

『広告批評』の実例を元に話していただきました。
異例ともいえる3パターンの表紙で、話題になった「ファッションコラボレーション」特集。
「カルチャー(表現)×広告(コミュニケーション)×時代」の方程式をどのように解いていきながら、誌面を作られていたのでしょう?


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では早速アペリティフに。「編集」とはどういうコトか?…ってあまり美味しくなさそうな名前の料理ですけどね(笑)。さっき、少し抽象的な定義もしましたが、ややこしい方はいっぺん忘れましょうか。とりあえずは「編集」という漢字を凝視してみます。漢文と考えて“レ点”をつけてみる。と、その意味がマンマ書いてありますよね? そう、編集とはようするに「集めて編む」ということだと。とりあえず、それくらいの解釈で話を進めます。Image may be NSFW.
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基礎編 雑誌で考えてみましょう

まずは雑誌の編集ということでお話してみましょう。その後、雑誌や書籍ともまた違うSNSでキュレーションな世界にも飛んで行くのですが、とりあえずは土台作りの作業をしておきたいと。両者の比較から現在のハイブリッドな情報環境を浮かび上がらせ、ご自身なりの立ち位置をイメージする、つまり、ニュートラルな目線で情報環境をマッピングしていただくことが、今日の編集セミナーの最終目標です。

さて、世の中にはいろんな雑誌がありますが、それぞれに特長、簡単に言うと個性みたいなものがありますよね? 顔つきやキャラクターがあると言いますか。それは偶然そうなっているわけではなく、意図してそうなっているわけです。各誌にはそのメディアのコンセプトや特性、読者層を考え抜いた毎号の「企画」があり、それをカタチにする「編集」と「デザイン」があります。※編集とデザインの関係については後で述べます。

特集企画の作り方―ケーススタディとして―

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自分の関わった事例でお話しましょう。私は「広告批評」という雑誌にかつて携わっていたのですが、例としていまからお見せするのは「ファッションコラボレーション」と名付けた特集号(2008年10月号)です。宮崎あおいさんにモデルをお願いし、3パターンの表紙でリリースしました。

なぜ、こういう特集を組んだのかをお話しますね。まず、「広告批評」という媒体の考え方や生理として、(1)「広告を通して同時代にアプローチする(時代に届く=コミュニケーションできる“言葉”を探す)」(2)「広告のことを広告以外のクリエイティブから考えてみる」という大きな編集方針がありました。言うなれば、これがミッションでして、読者層もそういったモノの見方に興味がある方を想定しています。

ゆえに取り上げる領域は幅広くなります。広告はもちろん、映画(映像)、デザイン、漫画、言葉、お笑い、写真、アートといったカルチャー現象から、メディア・社会事象にいたるまで、「いまどんな時代か?」を考えるためのインタビューやその他の素材を、毎月ひたすら集めては紙のパッケージに編んでいたのです。そういうキャラなわけです。

そのメディアが、ファッションというフィールドにアプローチする場合、情報を集めると言っても、ファッション界の最新情報をやみくもに集めればよいということにはなりませんよね? デザイナーへのインタビューやコレクションの紹介では、専門紙誌に到底太刀打ちできませんよね? だから、切り口やレイヤーを変える必要があるわけです。我々の場合、そのフィールド(この特集の場合はファッション)が「いかに時代とコミュニケーションしているか?」におのずとフォーカスすることになります。簡単に言うと、「その世界の広告やPR手法に学ぼう」という視点から、紹介する事例やインタビューの人選などを進めていくのです。

とはいえ、日本や海外のファッションブランドやアパレルの広告事例、PRの取り組みを紹介する特集はその2年前に一度組んでいたので、このときはもう少し別のアングルから企画を成立させられないかと考えました。そこで、ファッション系の専門誌の編集者にも意見を聞き、色々リサーチした結果、「コラボレーション」がキーワードとして浮上してきます。その数年前から「コラボ」という言葉がやたら取沙汰されるようになっており、「それがなぜか?」が個人的にも気になっていたこともあって、このキーワードを特集企画の羅針盤として設定したのです。


「カルチャー(表現)×広告(コミュニケーション)×時代」の方程式を解く

「コラボとは何か?」を考えてみますと、ブランドとブランド、つまり既存の価値と価値をかけ合わせて新しい価値を生み出すことだと思うのですが、それが流行になっているということは、独自の価値を生み出し、そのクリエイティブ力でコミュニケーションすることが難しい時代なのでは? ということも見えてきます。わかりやすく言うと、「ドコとドコが組みました」という話題はニュースにもなりやすいですよね? PRになり人もお金も動きやすいわけです。

当時はファストファッション化も言われるようになった時期でしたが、取材時期にちょうどH&Mが日本初上陸を果たすというタイムリーな話題も加わり、このブランドはコラボが得意ということにも注目しました。そこで「この特集では、そういった事例と手法を読み解くことで、広告のメソッドにもフィードバック出来るものがあるのでは?」と考えていったわけです。

しかし、たんなる事例紹介&関係者インタビュー集にはせず、できればもう少し遠く、広く行きたい。参加感や遊び心もインプットしたい。そこで宮崎あおいさんの起用となります。当時、「篤姫」という大河ドラマが大変人気を博していたのですが、宮崎さんはそのドラマに出演すると同時にエンポリオ・アルマーニのモデルも務めていました。言わば、着物とエンポリオの両方でメディアに露出していたのですが、その両方が違和感なく成立しており、「それも広義のコラボかもな」「その感じがいまっぽいな」と考えたわけです。つまり、「宮崎あおい」さんというキャラクターと組むことで、まったく違う領域にあるコンテンツ(大河ドラマ)やブランド(エンポリオ・アルマーニ)が時代に元気なメッセージを発信している。そこでコラボレーションの本質は「文脈をつないで活性化する力」にあるのでは? という仮説を立てました。


そこまで設計図が出来れば、あとは面白がって作っていきます。予想外のアクシデントも取り入れながら、ディテールを作りこんでいくのです。「広告批評」はアートディレクションとメイン撮影以外ほぼ自主制作、流通は基本直取引、販促物にいたるまで外注なしの雑誌ですから、制作作業はなかなかハードなのですが、そのぶん自由が効く部分はあります(発売日も毎月違う)。表紙もコラボによる違いを楽しんでもらおうと考え、伊賀大介さん、高橋靖子さん、橋本庸子さんという3名のスタイリストの方にお願いしました。まったく異なる魅力が引き出されますよね。写真はすべて篠山紀信先生に撮っていただきました。
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価値と価値のかけ合わせである「コラボレーション」も一種の編集的行為であり、この特集は私の考え方が説明しやすい例としてご紹介したのですが、基本、毎号こんな感じでパズルを解くように考えていってたんですね。「カルチャー(表現)×広告(コミュニケーション)×時代」の方程式を読み解きながら、誌面を作っていく。まさに“編み集め”てコラージュするということで、ページネーション(各記事の目次立て)に各要素がおさまったとき、個々の情報やコンテンツ(記事)は生き物のようになります。持続することで、世界観や美意識のようなものも生まれてきます。つまり、メディアがジワジワと人間化する。そのあたりが編集の醍醐味だと私は思います。

毎月の特集(企画)だけでなく、特集ごとの並びも編集されています。たとえば、この秋のファッション特集の前は、「オキナワ特集」を組みました。島でずっと表現活動を続けて来たミュージシャンや写真家、画家、役者さんに写真家の梅佳代さんがインタビューし、写真も撮るというものですが、お話をうかがったみなさんは70代以上の方々。ファッションの特集とはまるで違う印象ですが、「地域と表現活動」「時代を超えて時代に届くもの(表現の普遍性)とは?」といったあたりが企画のコアで、発想の根本は同じです。現代に埋もれてしまうかもしれない「声を記録する」のもメディアの機能です。

「ファッション特集」の後は、毎年定番の「世界のコマーシャル号(CD-ROM付き)」です。「日本の地方と表現者」→「服飾界のブランド的戦略」→「グローバルな広告事例集」の流れになっていて、その流れの中に「あんまり派手ではないけど、意義があると思うもの」、「キャッチーで幅広く話題になりそうなもの」、「メインユーザーである広告関係者の満足度が高そうなもの」などをバランスよく組みこんでいきます。

その後、一年の全特集を振り返り、「広告批評としてのストーリーテリングがキチンとできていたか?」「このメディアの過去の取り組み(歴史文脈)にコネクトできたか?」といったことをチェックします。これらの特集を組んだ2008年は「デジタルが情報世界をカバーしつつある状況下で、紙の雑誌にしかできないこととは何だろう?」ということを考えざるを得なかった年で、いま見直すと、誌面全体にその意識がムンムン漂ってますね、アツ苦しいくらいに(笑)。その絡みで言うと、自分個人の編集テーマとして「コラージュ&アクティベーション」というキーワードもあったのですが、それはこの後でご説明する「キュレーション」とも関わってくることですから、また後ほど。

話を戻すと、コミュニケーションのためのシズル(そそる感じ)という意味では、リリースのタイミングや季節感も大事ですね。こうやって定番モノから新しいチャレンジまで、ある種の触れ幅や意外性も計算しながら、総合的に設計していきます。月刊誌は毎月リリースしないといけないものですし、作業の途中で発見することも多いですから、まあ、走りながらやっていく部分も大きいんですけどね。

こういう感じで、それぞれの特集の企画意図やそれらの関連性を話し始めるときりがない。しかし、あらゆる雑誌は、なんらかのコンセプト(編集方針)や企画に基づいた上で、情報を編み集めているというイメージはお持ちいただけたでしょう。まあ、何か考えて編み集めてるんだなと。少し抽象的に言うと、紙の束をパッケージ化することで情報総体としての価値を創り、読者とコミュニケーションしている……というか遊んでいるのです。「価値」とか言うと味気ないですね(笑)。「おいしさ」や「栄養」としておきましょうか。フレンチか和食か、あるいは多国籍料理かといった方向性、シェフの哲学、素材の組み合わせ方やスパイスの利かせ方も含めた調理法、タイミング、盛りつけや供される順番等で料理の味も味わい方もマーケットの規模も全然違いますよね。ほぼそれと同じことだと思います。

もちろん、料理の世界に色んなシェフの方がいて様々なお店があるように、「編集」にも多様な考え方とスタイルがあるでしょうが、何十万部を発行する雑誌であれ、フリーペーパーや「広告批評」のようなミニコミ誌であれ根本はそういうことです。独自の「おいしさ」を創らなければ読者もつかず、コミュニケーションが円滑にいきません。ビジネスにもなりません。ポピュラーな味にするのであれ、至高の味を追求するのであれ、その“おいしさ具合”が勝負です。
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そのためにはやみくもに編み集めてもダメで、メディアのキャラや周辺文脈を把握すること、その上で緊張感と当事者意識を持って挑戦することが重要というわけです。つまり、「反射神経」や「なんでも己の目で見て体験する」ことが編集者の資質であり、それらがうまく溶け合うと「センス」という言葉では説明不能なスキルとなります。そのスキルは、日々の“運動”によってある程度は磨かれると私は考えます。

まあ、当たり前と言えば当たり前ですよね。しかし、今日の料理の下ごしらえとしてココは是非ともおさえておきたいと。次に話題を一気に「雑誌」から発展させます。ホップ・ステップ・ジャンプで言うところの「ステップ」のお話へ。次回は「あらゆるメディアは編集されている」というテーマとなります。

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>>MENU
【1】食前酒:自己紹介にかえて
【2】前菜A:編集とはどういうコトか?
【3】前菜B:メディアニュートラルに料理する
【4】メイン:キュレーションとは何か?

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河尻亨一 / Kawajiri Kouichi
銀河ライター主宰 / 元「広告批評」編集長 / HAKUHODO DESIGN / 東北芸術工科大学客員教授
1974年生まれ、大阪市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心にファッションや映画、写真、漫画、ウェブ、デザイン、エコなど多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集企画を手がけ、約700人に及ぶ世界のクリエイター、タレントにインタビューする。現在は雑誌・書籍・ウェブサイトの編集執筆から、企業の戦略立案、イベントの企画・司会まで、「編集」「ジャーナリズム」「広告」の垣根を超えた活動を行う。

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写真:綿村 健


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