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【CNTR TALK 4】メイン:キュレーションとは何か?|河尻亨一|“だれでも編集者”の時代が来てる?

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混迷な時代をSurviveするための編集力

—KANSAIから何をどう発信するかー

河尻亨一(銀河ライター/元「広告批評」編集長/東北芸工大客員教授)



河尻さん(銀河ライター/元「広告批評」編集長)をお招きしたCNTR TALKのレポート。

4回目のテーマは「キュレーションとは何か?」

あなたにもできる編集、それがキュレーション。人気の「NAVERまとめ」もそのひとつ。

そこに留まらないキュレーションの可能性は次回ですが、まずはブームの背景について。
「だれでも編集者」の時代とはどういうことでしょう?

実はこれまでの連載はじっくりと下ごしらえ。いよいよ、ココからが本番・メイン料理です!!


あなたにもできる編集、それがキュレーション

さて、キュレーションって何か? ここ数年よく聞く言葉ですね。ざっくり言うと、ネット上にある膨大な情報から好きなものを選んで、自分なりのテーマ設定や視点で再編集することと言いますか。TwitterやFacebookを使っておすすめの記事などを発信することもキュレーション行為でしょうし、最近では「NAVERまとめ」をはじめとする「キュレーションプラットフォーム」も大人気で、ほかにもいろんなサービスがリリースされてます。僕自身はキュレーションの可能性はそこに留まるものではないと考えてはいますが(※次回)、いま一番世の中にウケている「編集」(的行為)がキュレーションなんだと考えて差し支えないでしょう。

言ってみれば、ごった煮になったウェブ上の情報を個人が集めて編んでるわけです。一説によると、人類が始まってから2000年までに作られたすべての情報と同じ量の情報が、いまは2日で生まれているとも言います(スティーブン・ローゼンハイム著『キュレーション―コンテンツを生み出す新しいプロフェッショナルー』より。※海外書籍で少し事例が古いですが、教科書として素晴らしい本です)。

これ、どうやって調べたのかわかりませんが、ホントならとんでもないことですよね? こうなってしまうと、「何が正しくて何が間違ってるのか?」という人類普遍の疑問に行き着く前に、「一体どこが物事のポイント(面白み)なのか?」ということさえわからなくなってしまう。

ですから、ある視点に基づいてだれかが情報を整理してくれることへの期待がどんどん高まってるわけです。ここにキュレーションブームの背景があると言えるでしょう。チャンスですよね、編集者(笑)。しかし、実際にはそれを行うのはプロの編集者ではありません。ウェブ上のキュレーション行為の多くは、ユーザーが自発的に行うもの。正確には素人も玄人も関係ないんです。つまり、「だれでも編集者」の時代が来ています。

ようやく本日のメインディッシュに

うん、いわゆる「集合知」ってやつですね。冒頭(連載1回目)に、いまだ語り継がれる昔気質の編集者の典型についてお話ししたと思うのですが、その頃と比べると「ずいぶん世の中変わったもんだ」ということはイメージしていただけるでしょう。


あの…やっとウェブぽい話になって、いまちょっとホッとしてます。実は今日の本番(メイン)はここからでして、まだ何もしゃべってないに等しいんです(笑)。「どんだけ前ふり長いんだ?」って話ですが、これまでの話はこれまでの話で重要です。いま、意外と「これから」の話ばかりが強調される傾向もありますけど、前段階や本質(価値=おいしさの生まれるプロセス)をふまえないで「キュレーション」にアプローチしても、僕はなんか不毛な気もするんですよね。時流に乗っかってるだけで、その時流が変わればソッコー応用の利かない“料理人”になってしまいそうで。「イタ飯ブームだからイタ飯屋をやるんじゃ!」ということだけが動機では、商売長続きしにくいですよね? 

逆に言うと、いままでのお話を聞いてくださった方には、もうあまり説明の必要がないわけです。すでに話した「アレやコレ」と同じことが、上演スタイルやステージ、役者を変えていま起こってると。そう思ってくださってほぼ結構です。こうなると基本的には、「変わった部分」に注目して、その先のスキルを学べばよいということになります。

いま、“その先”というこれまた安直なモノ言いをしてしまったわけですが、意外とそう簡単でもないんですね、これが。編集によって「起こること」(料理がおいしい)はほぼ同じなのですが、「起こり方」(料理の作り方やプロセス)の面ではこれまでとかなり違う部分があります。異なるポイントを簡単にまとめてみましょう。

なんだか、ウェブ社会のメリット&デメリットが、編集フィールドにおいてもそのまま濃縮されてしまったの感もありますが、大事なポイントです。

ほしい情報をまとめてほしい

まず[1]はいいことですよね。参入のハードルが下がってるわけで。いままでなら「編集」という行為は基本、出版社や新聞社といったメディアカンパニーやそこと関わりを持つ人びとによって独占的に行われることでした。つい15年前を想像してもらえればいいと思いますが、そういう組織にでも属していないと、情報の発信など気軽に素人が行えるものではなかったのです。まあ、やったとしても同人誌を作るとかチラシをまくとか、極めて限定的、かつ手間もかかる発信でした。

で、もう説明するまでもないですがいまは違います。やろうと思えばだれでも個人で情報発信ができてしまう。それも「ウェブサイト→ブログ→SNS」という流れで、この三者がバトルロワイヤル状態になりながらも、どんどん簡単になっている。しかも、うまくやれば、そこそこの影響力だって持てるわけです。もちろん、マスメディアと比較すると一個一個は微々たる力なのですが、多くの人が「アレやコレ」をやり出してつながり合うと、そのパワーはハンパないです。色んな人たち同士で編集し合うのは、楽しいことですよね。

そもそも政治や重要な社会問題、災害といった全市民に関わる必須情報は別として、「数100万人~数1000万人にリーチする情報が、考えてみればホントにそれほど必要か?」といった面もあります。逆にジャンボメディアが取り上げないマニアックな情報のほうが、その世界に生きる人たちにとっては重要ということは多いですから、「そういうことはその筋の人に聞けばよい」となるのは当然です。言わば「ロングテール」ってやつですね。エンターテインメントの世界でも、芸人さんのギャグより自分の友だちがアップした動画や内輪ネタのほうが面白いということもママありますよね? 

ですから、そうやってウェブ上に上がった雑多な素材をだれかが勝手に調理して、よりおいしく食べさせてくれるのはありがたいわけです。「あ、これが食べたかったんだ、自分」と気づいたりもする。実際まとめサイトには、「ガリガリ君を使った料理のレシピ」から「893っぽい顔した猫の写真集」から「美魔女グランプリに学ぶ美容術」までなんでもありますよね? 正直、まったく面白くないのもすごくいっぱいありますが、その一方でたんにマニアックなだけでなく、レベルの高いものや面白いもの、生活に役立つものもたくさんあります。

雑誌をやった経験のある方はわかると思うんですが、大変ですよ? 雑誌で「悪相猫」の写真ばかり集中的に集めるのは。色んな猫を知ってる人にヒアリングしたり、猫タレがいる会社を回ったり。で、アポを取りまくって撮影して、謝礼も払って、校正段階で確認したら「ウチの子は893じゃありません!」とかさんざん説明したにも関わらず飼い主に怒られたりetc。

一方で、おそらくこれを作成したまとめ人は、色んな話題の猫写真が集まってるサイト等を回遊して、twitterなんかで検索などもして、情報を集めて来られたんでしょう。その気になれば一人で1日くらいでできるかもしれない。僕らから考えると、許諾の面での不安定さはあって、今後は問題事例も多くなりそうですが、普通のペット雑誌にはまずできないであろう「かゆいところに手が届く」オモシロ企画を形にしているとは言えます。

で、そういうのが探すとごまんとある。私が下北沢の本屋さんでやってる「働くキュレーターラボ(※イラストまとめ)」というゼミがあるんですが、生徒の方に課題としてNAVERまとめをやってもらったところ、もうね、すごいんです。面白いまとめがどんどんできるし、かなりのPVが集まる人気まとめをぶっ放す人も出てくる。編集好きで未体験の方は一度はやってみるといいかもしれません。いまの世の中(情報環境)がどんなことになってるか? がちょっとわかったりします。


ヒトの本能には逆らえない

もちろん、それらを作成している多くの方は、それぞれの専門や趣味の領域は持っていたとしても、「編集者」という意味では素人ですから、闇鍋みたいになっちゃうこともあるでしょう。「おいおい、これとこれを一緒くたにしますか?」ってヤツですね。食べられると勘違いして毒キノコ(誤報や怪しい情報)を平気で混ぜたりして、それを食った人が情報食中毒をおこすということもあり得ます。

しかし、これが時代の流れでおそらくもう止まりません。まず、そこは認めたほうがいいと思いますし、僕はとても面白い時代になったと感じています。さっき(前回)お話したように「人間は本能的にコミュニケーション大好き・編集大好きアニマル」ですから、我が家の猫が可愛いと思えば人に見せたくなって写真を上げてしまいますし、独特の切り口でそれらを集めようという人(それを見たいと思う人)だって出てくるわけです。その本能には逆らえません。

プロな領域で編集をやっている人にとっては「ケッ」と思えるかもしれませんね。自分が丹誠こめて作ったコンテンツに割いてもらえる時間はどんどん少なくなり、ときにはどこのだれやらわからぬ赤の他人の「まとめ」の一素材になってしまったりするわけですから。しかし、この状況を冷静に観察すればその態度は甘えにしか見えないと思います。つまり、ぶっちゃけ②の状況が進む可能性が高いわけですから、発想を変えてなんらかの対策を取る必要があるのです。

明治10年代になっても「オレは武士だ!」ということで、ちょんまげ結って刀さして街を闊歩したところでギャグでしょう?(もちろん、姿勢が立派で尊敬されていた人もいるでしょうが)。もちろん、人間には過去を懐かしみたい気持ちもあるので、「ヤッベ!ちょんまげ」みたいに思って“コスプレ”する人たちが現れたり、ある種のラッダイト運動みたいなことも起こるとは思うのですが、歴史に鑑みてそれはメインストリームにはカムバックできないのです。もはや賽は投げられてしまったわけですから。

なのでいまは[2]を真剣に考えることが大事だと思います。(ほぼ)だれもが編集料理人になってしまった結果、そこで生み出される料理の価値は下がり、事実価格崩壊も起きているのですが、その中でプロはどうやってサバイブしていったらいいのか? これは「編集」だけでなく、メディアやクリエイティブの領域で商売をする、多くの人に共通の課題です。幸い日本だけでなく世界に目を向けると、成功例やヒントも生まれ始めています。どんな時代でもプロしかできないことがあるわけですから、その可能性をポジティブに探りたい。


>>MENU
【1】食前酒:自己紹介にかえて
【2】前菜A:編集とはどういうコトか?
【3】前菜B:メディアニュートラルに料理する
【4】メイン:キュレーションとは何か?

河尻亨一 / Kawajiri Kouichi
銀河ライター主宰 / 元「広告批評」編集長 / HAKUHODO DESIGN / 東北芸術工科大学客員教授
1974年生まれ、大阪市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心にファッションや映画、写真、漫画、ウェブ、デザイン、エコなど多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集企画を手がけ、約700人に及ぶ世界のクリエイター、タレントにインタビューする。現在は雑誌・書籍・ウェブサイトの編集執筆から、企業の戦略立案およびコンテンツの企画・制作まで、「編集」「ジャーナリズム」「広告」の垣根を超えた活動を行う。

TW: @kawajiring FB: 銀河ライターファンページ
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写真:綿村 健


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